しまちゃんなりの小説の読み方

読了した小説を、ある観点から紹介していきます!そういう見方があったか!と思ってくれれば幸いです

失ったものを取り戻してからの第3のストーリー、どう歩む?

村上春樹さんの『東京奇譚集』読了しました。

 

この本は2005年に発行され、村上春樹さんの短編集の中で、かなりの人気を誇ってます。「奇譚」とは、珍しい話、不思議な話という意味で、今作品のテーマは、「不思議」と言えるでしょう。今作品は、5つの短編から成り立ってますが、死んだ息子らしき人が海辺で目撃されたり、腎臓の形をした石が勝手に動いてたり、猿に名前を奪われたり、不思議だらけです。その不思議さを読者に納得させる村上春樹さんの書き方には、畏敬の念を抱きます。

 

しかし、5つの短編には、もうひとつの共通点がありました。それは「失ったものを取り戻した後、その後を匂わせる」ということでした。5つのうち2つの短編を、この観点から紹介していきます(『品川猿』の方はネタバレなしになるよう書きました)

 

①『ハナレイ・ベイ』

この作品は、女性が主人公です。息子をハナレイ湾で亡くし、その後毎年ハナレイの町に訪れるようになる。ピアノが好きということもあって、至る所で弾き、良ければチップをもらう。ハナレイの町にいるある時、ノリと勢いの若者2人を助けることとなる。その2人から、息子に似た人を見かけたと言われる。

冒頭で「息子が亡くなる」というインパクトのある内容が来ます。夫(どうしようもなくだらしない奴)も亡くしていたので、独り身です。しかし、女性が悲しむ言葉などは見当たりません。つまり、息子があんまり好きでなかったのです。そのことは実際に述べられてます。ですが、息子らしき人の姿を見たという話を聞いて涙を流しました。やはり愛していたのだと、愛していたものは亡くなったのだと、受け止めるようになりました。その後、日本に帰ります。

日本に帰ってから、若者2人と会います。若者の恋愛に関して、生き生きした会話をします。

この女性にとっての第3のストーリーは、「愛」であると私は思います。

 

②『品川猿

私、大沢みずきはここ1年間で、自分の名前をよく忘れるようになった。外での仕事なので自分の名前を忘れてしまうことに非常に困った。ある日、品川区の広告紙を読むと、安い料金で専門のカウンセラーが個人相談してくれるという記事を発見する。私は行くことにした。そこでは色んなことを話した。夫についてや、高校の出来事・・。何度も行った。すると突然、原因が分かったとカウンセラーは言う。原因は・・・。

今作品は『東京奇譚集』の書き下ろし作品。つまり、目玉の短編と言えるでしょう。ここでの第3のストーリーは、「自分が歪めた現実、受け止めてどう生きるか」でしょう。主人公はずっとこう思ってました。「私は姉より恵まれてる」と。それもある視点からでは、まさにその通りであるとしか思えないのです。でも、原因は私にストレートに発言します。「恵まれてない」と。

確かに名前は、その人に対する“ラベル”かもしれません。しかし、名前は自分と共に生きてきたのだから、記憶がある。だから真実を受け止めることも大切だと言われているように感じました。

 

不思議には、何か強いパワーがあります。そのパワーをどのように受け止め、第3のストーリーを歩むかは、あなた次第なのではないでしょうか?